弁護士ブログ

2021年5月25日 火曜日

相続放棄をする際の留意点(相続財産管理人)

1 相続放棄をされる方に対する相続財産管理人選任手続の勧め
被相続人の相続財産が債務超過に陥っている際は、相続人の方は相続放棄の手続を行うことが多いかと思われます。
もっとも、相続財産の中に、土地や建物などの不動産が存在する場合は、相続放棄したとしても、相続放棄をされた相続人は、その不動産の管理者が現れるまでの間、自己の財産と同一の注意をもって管理しなければなりません(民法第940条)。

(相続の放棄をした者による管理)
第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

そのため、相続放棄をした後に、万一、老朽化していた建物(相続財産)が倒壊するなどして第三者に損害を与えた場合は、相続放棄をした者は、その第三者に対して、損害賠償責任を負う可能性があります。このようなリスクを回避するためには、倒壊等の危険がある不動産を管理または処分する必要があります。
そこで、相続放棄をされ、相続人が存在しなくなった場合には、相続放棄をした不動産を管理・処分する者(相続財産管理人)の選任手続を家庭裁判所で行っておくべきです。

2 費用等について
相続財産管理人が相続財産を管理するための費用については、原則として相続財産から支出されることとなりますので、相続財産に預金などが一定程度ある場合は、相続財産管理人の選任手続を行っておくべきです。
一方、相続財産に預金などがあるとしても、その金額が少ない場合には、申立人が予納金(相続財産を管理する費用等)を家庭裁判所に納める必要があります。予納金の金額は定まっておらず、事案の内容等により異なりますが、50万円~100万円程度が相場であると言われており、比較的高額となります(申立の段階で相続財産の処分等に費用がかかることが明白な場合は、予納金の額も高額になる場合があります。)。その予納金の金額が足かせとなり、相続財産管理人が選任されず、不動産の処分も進まない状況に陥ることが多々あります(空き家問題の一因と思われます。)。ただ、この場合、前述しましたとおり、相続放棄をされた方は、将来、その不動産の管理責任を負い続けることとなり、不安な状況が続くことになります。そのような不安な状況を解消するためにも、一定の費用がかかったとしても、相続財産管理人の選任手続を行うことをお勧めいたします。なお、相続財産管理人の選任手続を弁護士等の専門家に依頼する場合の費用や、家庭裁判所に納める予納金については、民事法律扶助制度により法テラス(日本司法支援センター)にて立替えできる場合もありますので、民事法律扶助制度のご利用も併せてご検討いただくことをお勧めいたします。

投稿者 東・上田・大槻法律事務所